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コラム

ロンジェビティ実現に向けた|再生医療・細胞治療の事例と現在地

前編では、健康寿命を延ばすための取り組みとして、生活習慣の見直しや予防医療・検査、早期介入を整理しました。一方で、加齢に伴う身体機能の低下には、予防や早期発見・早期介入だけでは対応が難しいケースもあります。

本記事では、その先の治療アプローチとして再生医療・細胞治療がロンジェビティ実現に向けて期待され、研究が進められている理由、研究の現在地、そしてヒューマンライフコードが取り組むサルコペニア研究について順に解説します。

なぜ再生医療・細胞治療がロンジェビティ実現に向けた新たなアプローチとして期待されているのか

再生医療・細胞治療が期待される理由は、身体機能の低下に対する予防や早期介入にとどまらず、低下してしまった機能の回復も目指すアプローチとして研究が進められているためです。

前編で整理したように、健康寿命を延ばす基本は、生活習慣の改善や検査による予防・早期発見です。変化に気づいた段階では、運動・栄養面の見直しや必要に応じた治療などの早期介入が行われます。

しかし、加齢に伴う身体機能の低下の中には、こうした取り組みを続けても十分な回復が難しいものがあります。そのような段階で、損なわれた組織の働きを補い、修復を後押しすることで機能の回復を目指すアプローチとして、再生医療・細胞治療の研究が進められています。

加齢に伴う身体機能低下に対する再生医療・細胞治療の応用

再生医療・細胞治療には、目的の細胞を作って移植する方法や、細胞が分泌する物質を通じて体の働きを整える方法など、さまざまなアプローチがあります。その中でも、加齢に伴う身体機能低下への応用が研究されている細胞の一つが、Mesenchymal Stromal Cells(間葉系間質細胞、以後MSCs)です。注目されているのは、MSCsが持つ免疫調節や組織修復、細胞間のコミュニケーションに関わる作用です。

前編で触れた老化の特徴(Hallmarks of Aging)の一つに、慢性炎症があります。はっきりした感染がなくても、加齢に伴って体内で弱い炎症が続く状態は、Inflammation(炎症)とAging(加齢)を組み合わせた言葉として「Inflammaging(インフラメイジング)」と呼ばれ、さまざまな加齢関連疾患との関わりが指摘されています。

MSCsは、骨髄や脂肪組織、へその緒(臍帯)などに含まれる細胞です。サイトカインなどの液性因子や、細胞間で情報を運ぶ小さな袋である細胞外小胞(エクソソームなど)を分泌し、免疫の調整や組織修復に働きかけると考えられています。

 

再生医療・細胞治療の現在地

再生医療・細胞治療は、市場が拡大し一部で実用化も進む一方、ロンジェビティに関わる領域では臨床研究・治験の段階にある取り組みが中心です。以下では「市場動向」と「研究事例」の2つの観点から現在地を整理します。

国内外で進む再生医療・細胞治療の市場規模

世界の再生医療市場は、2025年の482億米ドルから2034年には約3,608億米ドルへ拡大すると予測されています。国内でも、経済産業省が細胞・遺伝子治療の市場は2030年まで年率30%以上で拡大すると見込まれるとするなど、2030年以降に向けた成長産業として期待されています。

なお、市場規模は調査会社ごとに対象範囲や予測期間が異なります。詳細は関連記事で解説しています。

関連記事:再生医療の市場規模|2030年以降の成長予測と細胞治療・UC-MSCsの可能性

 

出典:Fortune Business Insights「再生医療市場規模、シェア 成長レポート 2034」
経済産業省「再生・細胞医療・遺伝子治療」

加齢に伴う身体機能低下に関連する研究事例

ロンジェビティの観点では、歩く・動くといった運動機能をいかに保つかが、自立した生活やQOL(生活の質)を左右します。その代表的な課題の一つが、健康と要介護の中間にあり、心身の活力が低下した状態である「フレイル」です。フレイルには薬や細胞治療などのまだ確立された治療法がなく、運動療法や栄養療法が中心となる中、再生医療・細胞治療の臨床試験が国内外で進められています。

米国では、70〜85歳のフレイル高齢者148名を対象に、骨髄由来のMSCsを用いた第Ⅱ相試験が行われました。最も投与量の多い群では、9か月後の6分間歩行距離がプラセボ群より約63m長かったことが報告されています。この結果を踏まえ、日本でも2022年に、国立長寿医療研究センターなどが同じ細胞を用いた国内第Ⅱ相臨床試験(医師主導治験)の実施を開始しています。

臍帯由来のMSCsでも研究が進められています。中国の第Ⅰ/Ⅱ相試験(プラセボ対照)では、投与群で身体面の生活の質(QOL) や、椅子から立ち上がって歩いて戻るまでの時間に改善がみられたと報告されています。ベトナムの第Ⅱ相試験(60〜85歳の147名)でも、投与群で身体機能の総合的な評価点が対照群より高かったことが報告されています。

ただし、いずれも参加者が限られた段階の試験であり、より大規模な試験での検証が必要とされています。

このように、加齢に伴う身体機能の低下に対する再生医療・細胞治療は、臨床試験を通じて科学的根拠を積み重ねている段階です。その中でも、フレイルと関わりの深いサルコペニアは、研究が進められている領域の一つです。

出典:国立長寿医療研究センター「加齢に伴うフレイル患者を対象とした国内第Ⅱ相臨床試験(医師主導治験)を実施」

Stem Cell Research & Therapy「Safety and efficacy of umbilical cord tissue-derived mesenchymal stem cells in the treatment of patients with aging frailty: a phase I/II randomized, double-blind, placebo-controlled study」

eBioMedicine「Safety and efficacy of allogeneic umbilical cord-derived mesenchymal stem cell infusion for frailty: a phase 2, single-centre, randomised, open-label controlled trial」

Cell Stem Cell「Randomized phase 2b dose-escalation trial of stem cell therapy with laromestrocel for aging frailty」

健康寿命の延伸を目指すヒューマンライフコードの取り組み

ヒューマンライフコードは、健康寿命に大きく関わるサルコペニア(加齢に伴い筋肉量や筋力、身体機能が低下した状態)について、「疾患の状態を理解する研究」と「新たな治療法につなげる研究」の両面から取り組んでいます。いずれも、加齢に伴う身体機能低下に対する再生医療・細胞治療の研究開発です。

疾患理解・評価につながるバイオマーカー研究

ヒューマンライフコードは、サルコペニアの状態を捉えるため、血液中の代謝物(体の中で栄養素などが分解・合成される過程でできる物質)に着目したバイオマーカー(体の状態を客観的に示す目印)の研究を進めています。

サルコペニアは筋肉量や筋力、身体機能の低下が徐々に進むため、症状がはっきり現れる前に体の変化を捉えることが、サルコペニアの予防、進行抑制につながると考えられています。ブラジルのリオ・グランデ・ド・スール連邦大学と共同で実施した臨床研究では、高齢者70名(サルコペニア群23例、非サルコペニア群47例)を対象に、血液中の代謝物を網羅的に解析しました。

2026年3月に米国の国際学会で発表された結果では、血液中の複数の代謝物の組み合わせによって、サルコペニアがある人とない人を見分けられる可能性が示されました。サルコペニアの状態を血液から客観的に捉えるためのバイオマーカーの候補が見つかったことになります。

こうした知見をもとに、ヒューマンライフコードは臍帯由来間葉系間質細胞(UC-MSCs)を活用したサルコペニアの新たな治療法の開発を進めています。

出典:ヒューマンライフコード「ブラジルで実施したサルコペニア臨床研究の結果を国際学会で発表」

加齢による筋肉機能低下へのUC-MSCsの効果に関する研究

UC-MSCsは、出産後に通常は廃棄される臍帯から得られるMSCsで、加齢による筋肉機能低下への治療を目指した研究が動物モデルで進められました。

名古屋大学大学院医学系研究科との共同研究では、老化が早く進むマウス(老化促進モデルマウス)にUC-MSCsを投与することで、握力・持久力の向上や骨格筋重量の増加が認められ、その成績は学会で報告されました。さらに、UC-MSCsが分泌する細胞外小胞(エクソソームなど)でも筋肉量の低下を抑制する作用が示されました。この結果は2025年7月、国際学術誌「Stem Cell Research & Therapy」に掲載されています。これらの結果に基づく特許が2026年1月に「筋肉量の低下抑制に用いる細胞調製物」として登録されており、研究成果を将来的な治療へつなげる基盤となるものです。

いずれも動物モデルでの研究段階の成果であり、今後は、ヒトでの有効性・安全性を確かめる臨床試験を重ねて、実用化を目指すことになります。

出典:ヒューマンライフコード「名古屋大学との共同研究成果を学会で発表~臍帯由来間葉系細胞を用いたサルコペニア治療の可能性~」

ヒューマンライフコード「ヒト臍帯由来間葉系間質細胞から分泌される細胞外小胞のサルコペニア治療応用の可能性 研究成果が国際学術誌に掲載」

ヒューマンライフコード「臍帯由来間葉系間質細胞のサルコペニア治療用途に関する特許取得のお知らせ」

 

まとめ

再生医療・細胞治療は、ロンジェビティ領域において、加齢関連疾患に対する新たなアプローチとして研究が進む分野です。前編で整理した「予防・早期発見」に加え、本記事で紹介した「治療・機能回復」の両面から取り組むことが、健康寿命の延伸につながると考えられます。

ヒューマンライフコードは、UC-MSCsを活用し、サルコペニアの状態を捉える研究と新たな治療法につなげる研究の両面から研究開発を進めています。2026年5月には、アブダビ・バイオバンク(Abu Dhabi Biobank)と戦略的パートナーシップを結び、サルコペニアを含む、治療の選択肢が限られている疾患に対するUC-MSCsを用いた細胞治療の研究開発にも取り組んでいます。

今後も科学的根拠を積み重ねながら新たな治療選択肢の可能性を広げ、「誰もが歳を重ねるごとに楽しみな世界を創る」というビジョンの実現を目指していきます。研究開発について詳しく知りたい方は、お問い合わせページよりご連絡ください。

出典:ヒューマンライフコード「ヒューマンライフコード、Abu Dhabi Biobankと戦略的パートナーシップを合意」

 

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