近年、医療やヘルスケア分野では「ロンジェビティ(Longevity)」という言葉が注目されています。
ロンジェビティとは、単に長く生きることではなく、健康や身体機能、QOL(生活の質)を維持しながら活動的に生きる時間を最大化することを重視する考え方です。
日本では高齢化の進行とともに健康寿命の延伸が重要な課題となっています。また、近年では、生活習慣の改善や疾病予防に加え、加齢のメカニズムを科学的に解明し予防や治療につながる新たな治療法の研究も進んでいます。
本記事では、ロンジェビティの意味や健康寿命との関係、ロンジェビティが注目される背景を解説するとともに、健康に過ごせる期間を延ばすために、現在どのような取り組みや研究が進められているのかを紹介します。
また次の記事では、これらのアプローチの一つである再生医療・細胞治療にフォーカスし、その現在地とヒューマンライフコードが取り組む研究についてお伝えします。
ロンジェビティ(Longevity)は、直訳すると「長寿」や「寿命の長さ」を意味する言葉です。近年の医療・ヘルスケア分野では、単に寿命(lifespan)を延ばすだけでなく、健康で過ごせる期間(healthspan)を延ばし、年齢を重ねても健康や身体機能、QOLを維持しながら活動的に生きる時間を最大化することを重視する意味で使われています。
日本では、健康上の問題によって日常生活が制限されることなく生活できる期間を「健康寿命」といい、その延伸が国の健康づくりにおける重要な目標とされています。
厚生労働省の健康日本21(第三次)では、「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」が基本的な方向の一つに掲げられています。2022年のデータでは、日本の平均寿命と健康寿命との差は男性で約8.5年、女性で約11.6年です。平均寿命が延びるなか、健康寿命もあわせて延伸し、健康で自立して過ごせる期間を長くしていくことが重要な社会課題となっています。こうした課題意識の高まりを背景に、近年はロンジェビティへの関心が高まっています。
出典:厚生労働省「健康寿命の定義と算出方法」
厚生労働省「健康日本21(第三次)」
ロンジェビティが注目される背景には、高齢化の進行があります。個人はもちろん、医療・研究機関、企業、行政などが幅広く、「年齢を重ねても健康で自立した生活を長く続けること」を重要なテーマとして捉えるようになりました。特に、認知症やサルコペニア、生活習慣病をはじめとする加齢とともに発症・進展リスクが高まる疾患への対応は大きな課題となっています。
加えて見過ごせないのが、医療・介護に関する財政的な課題です。厚生労働省によると、2023年度の国民医療費は48兆915億円で過去最高を更新し、前年度比3.0%増、国民1人当たり38万6,700円となりました。
また介護保険制度における2024年度の介護給付費も11兆9,381億円と過去最高を更新し、前年度比3.7%増加しています。高齢化が進むなか、医療や介護にかかる負担は、社会全体で向かうべき課題となっています。
こうした背景から、年齢を重ねても健康や身体機能を維持し、健康寿命を延ばしてくことは、個人のQOLの向上だけでなく、医療・介護負担の軽減や社会保障制度の持続可能性を考えるうえでも重要です。
出典:厚生労働省「令和5(2023)年度国民医療費の概況」
厚生労働省「令和6年度介護給付費等実態統計の概況」
近年では、老化を単に避けられない生理現象として捉えるだけでなく、そのメカニズムを科学的に解明し、健康寿命の延伸につなげようとする研究が進んでいます。
老化研究の代表的な枠組みとして知られる「Hallmarks of Aging」では、DNA損傷の蓄積やミトコンドリア機能の低下、細胞老化、慢性炎症など、老化に関わるさまざまな要因が整理されています。こうした研究により、加齢に伴う身体機能の低下や加齢関連疾患がどのような仕組みで生じるのか、その理解が進んでいます。
なかでも、近年注目されているのが、加齢に伴って体内で慢性的な炎症が続く状態を指す「インフラメイジング(Inflammaging)」です。心血管疾患や糖尿病、認知機能の低下など、さまざまな加齢関連疾患との関わりが指摘されており、こうした加齢のメカニズムを理解し、予防や治療につなげるための研究が進められています。
代表的な課題の一つがサルコペニアです。サルコペニアとは、加齢などに伴って筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下した状態を指します。サルコペニアが進行すると、転倒や骨折、フレイル、要介護状態のリスクが高まることが知られており、健康寿命の延伸を考えるうえで重要な課題の一つとなっています。
出典:Carlos López-Otín「Hallmarks of Aging」
近年、ロンジェビティは研究分野にとどまらず、世界的な投資テーマとしても注目を集めています。代表的な例が、2022年に設立された米国のAltos Labsです。同社は約30億ドルを調達し、「細胞の若返り(cellular rejuvenation)」を中核テーマに据えた研究を推進しています。Jeff Bezos氏などの著名投資家や世界トップクラスの研究者が参画したことも大きな話題となりました。
また、サウジアラビアのHevolution Foundationは、健康寿命の延伸を目的とした研究や事業化支援のため、年間最大10億ドル規模の資金投入を掲げています。こうした大型投資は、加齢を単なる自然現象ではなく、科学的に理解し介入することで健康寿命の延伸につなげようとする世界的な潮流を象徴しています。
さらに近年は、Eli LillyやNovo Nordiskといった大手製薬企業も、加齢そのものに着目した研究に関心を示しています。ロンジェビティは、予防医療や再生医療・細胞治療と並び、次世代のヘルスケアを支える重要なテーマとして注目が高まっています。
健康寿命を延ばすためには、一つの方法だけに頼るのではなく、日々の生活習慣の改善から疾病予防、早期発見・早期介入、適切な治療まで、さまざまな段階での多角的なアプローチが重要です。ここでは、ロンジェビティを支える代表的な3つの取り組みを紹介します。
生活習慣の改善は、健康で自立した生活を長く続けるための基本となる取り組みです。
具体的には、十分な睡眠時間を確保して心身の回復を促すこと、野菜やたんぱく質を意識したバランスのよい食事をとること、ウォーキングや筋力トレーニングなどの運動を継続することが挙げられます。また、過度な糖質摂取を避け、血糖値を適切に管理することも重要です。
さらに、体重や歩数、睡眠時間、血圧などを記録し、自身の状態を継続的に把握することも生活習慣の改善につながります。
こうした生活習慣を継続しやすくするため、行政や自治体、企業などでは、さまざまな支援が行われています。例えば、健診結果をもとに保健師や管理栄養士などが食事や運動について個別に助言する保健指導や、歩数や体重、食事などを記録する健康アプリの提供、運動教室や健康講座の開催など、行政や企業による行動変容を支援する取り組みも行われています。
一方で、健康寿命を延伸するためには、生活習慣の改善だけでなく、疾患リスクや身体機能の変化を早期に把握し、適切な予防や介入につなげることも重要です。
病気になってから治療するだけでなく、現在の健康状態や疾患リスク、身体機能の変化を早期に把握し、必要な予防や早期介入につなげることが重要です。そのために活用されているのが、特定健康診査や人間ドックをはじめとする各種健診や血液検査、画像検査などです。
これらの検査を通じて、生活習慣病やがんなどの疾患リスクや身体機能の変化などを確認し、その後の予防や治療につなげることができます。
一方、厚生労働省によると、2022年度の特定健康診査の実施率は58.1%(受診者数約3,017万人)、特定保健指導の実施率は26.5%で、いずれも前年度を上回ったものの、依然として対象者の半数近くが未受診の状態にあります。
こうした課題を踏まえ、健診受診の促進や健康データの活用を通じて、疾病リスクや健康状態の変化を早期に把握するための取り組みが進められています。
さらに近年は、医療や研究の現場において、身体の状態をより客観的かつ詳細に評価するための研究も進んでいます。その一つとして注目されているのが「バイオマーカー」です。
バイオマーカーとは、血液検査や画像検査などから得られる情報を用いて、身体の状態や病気の進行、治療効果などを客観的に評価する指標です。疾患の早期診断や治療効果の評価、新たな治療法の研究開発などへの活用が期待されており、次世代の予防医療・検査を支える技術として国内外で注目されています。
出典:厚生労働省「2022年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況」
検査によって疾患リスクや身体機能の変化を早期に把握した後は、その状態に応じて適切な介入や治療につなげることが重要です。例えば、高血圧や糖尿病のリスクが高い場合には、食事や運動などの生活習慣の改善に加え、必要に応じて薬物療法などが行われます。
こうした介入や治療は、健康寿命の延伸に重要な役割を果たします。一方で、加齢に伴って生じる組織や身体機能の変化に対しては、従来のアプローチだけでは十分な対応が難しい場合もあります。
こうしたなか、新たな治療アプローチの一つとして研究がすすめられているのが、再生医療・細胞治療です。再生医療・細胞治療は、細胞や組織が持つ働きを活用し、損なわれた組織や機能の回復、疾患の治療を目指す医療分野です。
現在、さまざまな疾患を対象に研究開発が進められていますが、実際の治療として患者さんに届けるためには、有効性や安全性を科学的に検証し、実用化につなげていくことが必要です。再生医療・細胞治療の現在地や研究の広がり、そしてヒューマンライフコードが取り組む研究については、次の記事で詳しくご紹介します。
ロンジェビティは、単に長く生きるだけでなく、健康に過ごせる期間を延ばし、年齢を重ねても自立した生活やQOL(生活の質)を維持しながら活動的に生きる時間を最大化することを重視する考え方です。
その背景には、高齢化の進行に伴う社会的関心の高まりに加え、医療費・介護費の増加といった社会的課題や、加齢のメカニズム解明が進んでいることがあります。
また、健康寿命の延伸に向けては、生活習慣の改善や予防医療による早期発見、適切な介入・治療など、多角的なアプローチが重要です。近年は、加齢に伴う身体機能の低下に対する新たなアプローチとして、再生医療・細胞治療の研究も進められています。
次の記事では、再生医療・細胞治療にフォーカスし、その現在地とヒューマンライフコードが取り組む研究について詳しくご紹介します。ぜひあわせてご覧ください。
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